ここまできたら、もう引き返すわけにはいかない。


目の前で未だに不思議そうな顔をする頼城先生に向かって、あたしはゆっくりと足を進めた。



「あの、この前の授業の解説で、1つどうしてもわからないところがあって……。

自分でも考えてはみたんですけど、何て言うか……その、えーっと……もう一度、説明していただけませんか?」











「はぁい。お疲れ様!よく頑張ったんじゃない?出てくるまでに30分もかかったんだもん! 臆病者の奏にしては、上出来ねっ!」



疲れ切ったような表情で職員室を出たあたしに、彩乃が笑顔でそう言った。


「これはご褒美よ! ありがたく受け取っておいてね」


オレンジジュースの入ったペットボトルをぽんっ、とあたしの手に乗せた彩乃は、綺麗に笑った。



こんなに綺麗に笑える彩乃だもん。

勇人が夢中になるのも、当然だよね……



「ちょっと、何ぼーっとしてるのよ!」



呑気にそんなことを考えてたら、彩乃に頭を叩かれた。


彩乃の方が身長が高いから、手の平がまともに頭に当たる。



「さっさと移動するわよ!こんな所にずっといたら、部活に行く先生に遭遇しちゃうでしょ」



そう言いながらすたすたと歩きだした彩乃を、あたしは必死で追いかけた。