『……――吸血鬼に会ったの?』
『葵ちゃん、しっー!』
多少は子どもらしくない私でも、絵本だけは大好きだった。よくお母さんや保育所の先生にせがんでは、何度も読んで聞かせてもらっていたものだ。数多くある読んでもらった絵本の中に、吸血鬼も登場していた。人の生き血をすすり飲み、その姿はあらゆる者を惑わせる。絵本に描かれた話意外で、直接先生から聞いた知識だった。
厄介なことにその先生の話し方が上手く、当時の私には刺激が強すぎた。軽く泣きそうになり、先生を困らせてしまった。それでも恐くてお昼寝の時間、先生に手を握ってもらい眠る。なんて可愛い時代が私にもあったのだ。
と、私の思い出話はここまでにして。
そんな記憶があった私は当然雛の心配をした。
『雛ちゃん!吸血鬼のお嫁さんになんてなっちゃ駄目!』
『どうして?』
『吸血鬼は血を吸う恐い人なんだよ!?』
砂場で遊んでいた道具も投げ出して、私は必死に説得をしようとした。それなのに雛は……。
『大丈夫!王子様は優しいもん!』
無邪気な明るい笑顔で言い切り、耳を貸そうとしなかった。挙げ句の果てには何度も会っていたと告白して怒り出す始末。
『王子様を悪くすると言う葵ちゃんなんて嫌い!』
『……!?』
…………。まあ、吸血鬼うんぬんの話よりも、実はこの時の雛の言葉にショックを受けて激しく落ち込んだからこそ、覚えていたりする。その後に機嫌を直してもらい、やっとのことで仲直りしたのだ。雛が意外に頑固だったのだと思い知らせた苦い思い出である。
それからその王子様とやらは、私の名前と同じ色の瞳をもつ容姿なのだと判明した。中学校にあがる頃には吸血鬼は存在しない空想の生き物であり、その他にも色々とあることは自然とわかっていたのだけれど……。
「――……君は、雛の友達かい?」
