吸血鬼の花嫁


『葵ちゃん、誰にも言わない?』
『うん、言わない』
『絶対?』
『うん、絶対』

重い口を開き、誰にも聞こえないよう私の耳に口を寄せて。雛は言ってくれた。

『あのね、私ー……吸血鬼の王子様と』

……ああ、思い出した。雛は教えてくれたんだ。まだ小さなその頬を赤く染めて、恥ずかしそうに。好きになった男の子の事を。
私はゆっくりと瞼を開いて、暗かった視界に光をとり入れた。目が覚めるとそこは見慣れた天井と景色で、ベッドの上で眠っている。そこが私の部屋だと気付いた時には意識がはっきりとしていた。

「あれ?確か私ー……」

学校から帰ってた途中で、それから――。

「あ、目が覚めた?」
「え?」

ベッドから上半身たけを起こしてやっと存在を知ったその人は、見覚えがある彼だった。当たり前のように読んでいた私の本を棚になおし、傍に近寄ってくる。
あれ、こんな美形の知り合いなんていたっけ?
そんなどうでもいい考えが頭をよぎり、それからすぐに思い出した。

「青い目の吸血鬼!雛の王子様!?」

言われた本人は少し困ったように笑う。彼が膝を床につけ、私を見つめる青い瞳と視線が絡んだ。
私は開いた口を閉じれず呆然とする。
まさか、本当に存在していただなんて……。
雛と初めて喋るようになったきっかけなんて覚えていない。いつのにか親友として傍にいた。多分、それは雛も同じだろう。
だけどあの日、雛が話してくれた内容はしっかり記憶に残っている。雛が吸血鬼の花嫁になると言った時は驚いたから。