吸血鬼の花嫁







『葵ちゃん』
『ん?』

夢を見ていた。まだ保育所に通っていた頃の記憶。親友の雛と遊んでいた昔の思い出だった。

『私ね、大きくなったらお嫁さんになる』
『お嫁さん?』
『うん!』

私は砂場の土を茶碗に詰めてびっくり返す。慎重に器を取り、上手く形が整った土の塊に満足 していた。それから嬉しそうに話す雛に視線を向ける。当時、私が真っ先に浮かんだのは、お母さんに教えてもらったばかりの言葉だった。

『……雛ちゃん、結婚は”人生の墓場”だから止めた方がいいよ』
『”人生の墓場”って?』
『苦しい所って意味だよ。お母さんが言ってた。結婚は”人生の墓場”だから、初めてはよく考えなさいって』

今にして思えば、あの頃から私は可愛いげのない子どもだった。当時から現実を見ようとする子どもだったのかもしれない。

『……でも』

そんな私の助言に悩んで、雛はそれから何かを決意したようだった。

『ん?』
『雛、約束したんだもん。花嫁さんになるって』
『誰と?』

珍しくすぐに答えてくれないことに、多分私は嫉妬したんだと思う。雛がその誰かとだけ秘密を持ったことに。
我ながら呆れてしまう。そんな我が儘を、雛は受け入れてくれた。