「失礼しました」
そう言って教務室を出た頃、辺りは暗く、夕日が沈みかけていた。
「長かった……」
早く帰ろうと思って最後の授業が終わると同時に教務室に走った。なのに先生の説教は予想以上に長かった。体力的にも精神的にも限界が近くなった時、ようやく終わったのだ。
『いいですか?今後は”真面目に”授業を受けるように』
そんな先生の真面目過ぎる対応は私の頭を悩ませる。
これからは一瞬の眠りでさえ許されないだなんて、そんなの辛すぎる……!
恐らく今日ので目をつけられたに違いない。ただですら嫌いな英語の時間が拷問のようだ。
「早く帰ろ」
雛に連絡して、今度の休みに遊びに誘わないと。確か明日はバイトも休みだし、一日中予定が空いてたはずだ。
明日が休日だったことに感謝して、私は学校を出た。こんな時間に歩いて帰るのは久しぶりで、妙に緊張してしまう。外に出てもやっぱり暗い景色があって、家に着く頃には夜になっているかもしれないと思った。
今度からは自転車通学にしようかなー。
そんなことを考えていた時、不意に前から人が歩いて来るのが見えた。二十歳前後だろうか、遠めからでも美形だとわかる青年がいる。服装は黒一色のマントのような布を全身に纏い、ゆっくりと歩いていた。
格好いいのに変な人だなー。
そう思った。だけど距離が近付いてくるたびに、何故か目を反らせなくなる。
「お嬢さん、こんにちは」
深い海の底を思わせるような青い瞳が、私の視線を捕らえた。
色素の薄い栗色の髪と整った白色の肌をした顔。それを増大させるような甘く響く声。
彼に声をかけられた瞬間、心臓が大きく高鳴ったのがわかった。
