「でも、ありがとう」
「え」
一度反らしていた目を王子に向けると、穏やかに微笑む姿がそこにはあった。ゆっくりと感謝の気持ちを伝えてくれる態度に、全身が熱くなる。
あ、あれ……?
私の心臓が馬鹿みたいに速く動いて、時間が止まったような錯覚をしてしまった。
「葵ー!ライルド王子様ー!それからサリエフさーん!起きてますかー!」
お母さんの声が部屋の外から聞こえてくる。一階から叫んでいるのか二階にいる私には少し小さく聞こえていた。
お母さん、いつの間にか帰ってたんだ。そういえば今日も日勤だ、とか言ってたっけ。
日勤の日は晩御飯を作ってくれるというのが我が家の約束事だ。だからその日にはお母さんも夕方帰ってくる。
「今行くー!」
私はそれだけ返事して、ベッドから立ち上がった。真似をするように王子も立ち上がり私に続く。
「そういえばライルド王子。王子って吸血鬼でしたよね?食事とかはー」
「基本的には摂らなくても大丈夫だけど、こっちでの食べ物には興味があるからね。ご馳走になるよ」
「食べられない物とかないんですか?」
「大丈夫。苦手な物ならあるけど」
それから王子とサリエフさんが意外にもお母さんの手料理に興味津々で。特にサリエフさんはお母さんの言葉を書き留め、レシピを必死に聞いているようだった。
サリエフさんの可愛いらしい一面を垣間見た気がする。そんな視線に気付いたサリエフさん本人に、突き刺すように睨まれたのは怖かったけれど。
