雛が泣いていた姿を見て、私は王子に対して単純に腹が立った。脅える雛になんてことをしたのだと。女の子を泣かせるなんて最低なやつだと。
だけど王子は?
迎えに行ってやっと再会できたのに、その女の子に忘れられていたライルド王子はどう思ったのだろう。私なら、辛くて、苦しくて。一晩中泣き明かして帰っていたと思う。それでもライルド王子は諦めきれずにここにいて、雛と結婚しようとしている。
「王子にとっての花嫁は、雛ただ一人。それだけなんですね」
王子はここまで話してくれたのは、きっと私が雛の親友で、唯一の希望だから。砂粒ほどの小さな可能性でも、その可能性にかけるしかないと思って頼んできたのかもしれない。雛と、どうしても昔の記憶を取り戻した雛と結婚するために。
「王子。私、決めました」
ライルド王子の冷えた両手を包み込み、温めるようにして私は手のひらを重ねた。王子は驚いたように目を見開き、壁を見ていた視線を私に向ける。
ついさっきまではどうしようかと悩んでいた。昨日は口では協力すると言ったけれど、本心からの言葉ではなかった。だけど雛を花嫁にしたい理由。それが少しでも聞けたから、だから私は決意する。
「王子が雛を必要としているのなら、全力で協力させてもらいます」
「……葵は、騙されやすい性格だって言われない?」
「へ?」
思いもしなかった言葉を返され、一瞬だけ私の思考が停止してしまった。
まさか、ライルド王子は今の話で嘘をついていたのだろうか。
そんな考えが頭に思い浮かぶ。
「それからお人好しとか、流されやすいとか」
「うっ……」
こ、心当たりがあるだけに何も言えない……。
過去にあの雛にでさえ、葵ちゃんは騙されやすいから気を付けてね、と言われたことがあった。その時はショックで倒れそうになったものだ。一応自分なりには注意をしているつもりなのだけれど……。
