吸血鬼の花嫁


「いつ。どこで。誰に」
「それは……昔の話で、雛にも危害は無かったから大丈夫だったんですけどー……」

王子の目付きが変わっていた。その時、背中に悪寒が走って私は震えそうになる。王子は知らなかった過去にというよりも、雛を襲った犯人をどうにかしてやりたいと思っているような、そんな怒りのこもった瞳をしていたからだ。ライルド王子の吸血鬼としての本性を垣間見た気がして恐怖心を覚える。だけど私の言葉に納得したのか、昨夜と同じ、人が良さそうな優しい表情に戻っていた。

「知らなかったとはいえ、雛に悪いことをした……」
「いや、反省してくれているなら、別に良いんですけど……」

それからは様子がうって変わり、王子の表情は悲しみに染まっていく。
私はライルド咄嗟に掴んでいた手を離してしまった。そんな顔にさせたのは私で、そうさせたかったのに何故か罪悪感が募る。
ライルド王子のことは昨夜に会ったばかりでほとんど知らないでいた。でも根はとても優しい性格なのだとすぐにわかった。雛の話をしている時は特に、慈しむような眼差しをしていたから。

「他には、雛は何か言ってなかった?」
「いえ。特には」
「そっか……」

小さくなった声に、私はどんどん不安さが増していく。雛を励ますのは慣れていた。だけど男性の、ましてや吸血鬼の王子様に対する慰め方なんてわからない。それでも今にも泣きそうな彼をほっとくことは出来なかった。年上のはずなのに、昨日知り合ったばかりの吸血鬼なのに、どうしても気になってしまう。ほとんど笑っているところしか見たことがないからかもしれない。なんとかしたくなって、私は思い付いた言葉を投げ掛けてみた。