吸血鬼の花嫁


私はライルド王子の胸ぐらを掴み、自分の方へと引き寄せた。それから抑えきれない怒りの感情を吐き出すように、彼を思いっきり睨み付ける。

「雛が好きだとかほざいているくせに、その好きな女の子を泣かせるなんてどういう神経をしてるの!?」
「え、……雛?」

カラオケの一室で、雛は泣きながらも事情を聞かせてくれた。家に帰ってからは自分の部屋で寛いでいた。私が学校でまだ叱られているだろうと思い、携帯でメールも送らなかった。帰ってきたら私が連絡してくるだろう、そう考えたから。実際、何度もそんなやり取りをしてきている。そこにいきなり窓を開けて誰かが入ってきた。全身が黒色の服を身に付けた見覚えのない男が。

「雛はね!昔襲われたことがあって、それ以来トラウマになってるの!」

見たこともない男だった。全身を真っ黒のジャージでかためて、まだ雛が小学生だったのに無理矢理家に侵入してきて、誘拐をしようとしていた。幸い、雛の家にはいつもお母さんがいたから、すぐに気が付いて何もされずに済んだ。警察だって呼んで、暫くは家の周りの警護もしてもらっていた。
だけどその日から、雛は一人だけで行動するのを拒むようになった。また誰かに襲われたら、そう思うの自然なことだろう。

『葵ちゃんっ……』

まともに会話が出来るようになったのも、一緒に学校に通えるようになったのも、全部何日もかかった。
そんな雛もやっと昔の事として忘れ始めていた時だったのに、それなのによりにもよって誕生日に、しかも窓から勝手に侵入するだなんて……!

「雛が、襲われた?」

ライルド王子は静かに呟き、私の言葉を繰り返す。