吸血鬼の花嫁



「葵ちゃんに婚約者が現れたの!?」
「違うからね!?なんで私に婚約者が現れるの!」
「え?だって、葵ちゃんならいそうだし……」
「いやいや、雛の話であって私のじゃなくてー」
「もしかして葵ちゃん、結婚するの!?」
「あのー、もしもし雛さん?お願いですから私の話を聞いてくれません?」

全力で否定するも、どうやら雛は違う方向に想像力を働かせ始めているようだ。
うん、駄目。この話題は却下だな。思い当たる節はなさそうだし、続けていたらどんどん話がずれて行くような気がする……。

「あー、それから、昨日学校から帰った後の話なんだけど――」

この際頭がおかしくなったと思われてもいいや、と。そう思って率直に質問してみることにした。雛は昨日の夕方、吸血鬼に会わなかったのかと。
そう思い話題をふったその直後だった。雛の様子が一変したのは。

「……雛?」

いつもは桜色に色付いている頬が瞬時に蒼白になり、笑顔が消えていた。唇は強く閉じられ、何かに堪えているような、そんな表情をしている。
どうしたのかと、私は声をかけようとした。雛の様子は明らかにおかしいからだ。

「葵っ、ちゃ……っ」
「雛、どうしたの?」

声を出すたびに瞳が徐々に濡れていく。雛は泣きそうなのだと理解した。
私の前でも滅多に泣かない雛のこんな姿を見るのは何年かぶりで、どうしていいのかわからずうろたえてしまう。
そして私が後悔したのはそのすぐ後だった。

「私、私。凄く、恐かったっ……」
「雛……」

雛が涙を流してそう言ったからだ。頬を伝って落ちるそれが、どれだけ恐かったのかを教えてくる。

「嫌な事を思い出させてごめん、ごめんね雛」
「……っ、ううん。私、こそ、急に泣いちゃって……」

私は雛を両腕で強く抱き締め、時々背中をさすったり軽く叩いたりして慰めた。それから泣き止んで、ようやくいつもの笑顔が見れたのは数十分も後で。
私に話したことで少しはすっきりしたのか、雛はお礼を言って帰っていった。
そんな後ろ姿を見送って、私は込み上げてくる怒りを抑えて歩き始める。

「あ……んの、バカ王子がっ!」