「紺野葵(こんのあおい)さん!」
やっとその正体がわかる。
そう思った丁度その時、突然頭に聞き覚えのある大声が響いた。私を現実に連れ戻したそれは、恐れ多くも私の担任教師。英語の先生だった。
「……はい、先生」
「紺野さん、あなた寝ていたわよね?今」
「…………」
ぼんやりとする思考で見上げた先生の顔は、いつもより眩しい笑顔。中央に寄せた眉が小刻みに動き、唇の端は片方しか上がっていない。簡単に説明すると、それは先生が怒っている時の表情だ。
「……え」
現在進行形で起こられている生徒、そんな私はといえば理解が出来ずにいる。
何で先生に起こられてるんだろ。よし、頭の中を一度整理してみよう。
「紺野さん。放課後、英語担当教務室に来るように。良いわね?」
私の願いも虚しく、先生は考える時間すら与えてはくれなかった。強制的な判決の意味を理解したのは後からで、既に授業が終了していた。そんな私を待っていたのは予想通りの一言。
「葵ちゃんの馬鹿」
「ごめんなさい」
休み時間になってすぐ、私の席まで来て不愉快な言葉を浴びせる親友の如月雛(きさらぎひな)の声だった。普段なら言い返すそれは、私の胸に深く突き刺さる。
うう……今日のは完全に私が悪い。
「せっかく一緒に誕生日祝いをしようって計画してたのに」
「雛、本当にごめん!」
不機嫌そうに口を尖らせる親友に、私は両手を合わせて頭を下げた。どんな表情をしていても可愛いとはいえ、さすがに誕生日にまで怒らせたくはない。
「もう過ぎたことだから仕方ないけど」
真剣に謝っているのが通じたのか、雛は溜め息をつくとそう言って許してくれた。さすがは十年以上の付き合いになる親友だ。心が広くて優しい。
「その代わり!今日のお昼は葵ちゃんの奢りだからね!」
「ええっ!?」
「当たり前でしょう?私の誕生日に用事を作った罰!」
「くっ……」
言い返せない。言い返せないけどっ……!やっぱり心は広くないし優しくない!
改めて親友についての情報を上書きし、私は脳内に刻みつけることにした。雛は雛だった、と。
