吸血鬼の花嫁


「単刀直入に言えばそうだね」

葵は物分かりが早いね。
などと陽気に笑うライルド王子。普通なら、ここで協力していたかもしれない。正直な話、この王子様には好感をもっていたから。事情を聞いた私は益々協力しなければと、そんな使命感にかられる。
なんて思うわけもなく、理由もなく襲われて犠牲者となった本人としては、単純に優しい王子様だと思っていた幻想が崩れ落ちただけだった。

「……って、そんなこと自分一人で考えればいいじゃないですか!」
「うん、僕も始めはそのつもりだったんだけどね。せっかくの幸運だから。利用しない手はないと思って」

なんなんだ、その使えるものはとりあえず使っておけ、みたいな精神は。吸血鬼って、皆こんな感じの性格なんだろうか。
数分前までは天使のように見えていた王子の笑顔が、今は悪魔の微笑みにしか見えない。爽やかな笑顔の後ろに黒い何かを感じてしまい、花嫁として嫁ぐであろう予定の雛が本気で心配になり始めていた。

「あ。ちなみに君の母君だとは思うけど、彼女には既に許可を得ているから安心してね?」
「え」
「大丈夫。君をこの部屋に運び入れる時も快く承諾してくれたから。本当に優しい母君だよ」

いつの間にお母さんに会っていたんだろ?
私のお母さん、紺野和子(かずこ)はたった一人、唯一の家族であり我が家の大黒柱でもある。日々の生活の時間をほとんど仕事に費やしている。そのため家を空けることが多い。
確かに今夜はお母さんが家にいる日だったけれど、どうやって許可を得たのだろうか……。
娘の私が言うのも何だが、お母さんはとても頑固である。おまけに他人が家の中に入ることを好まない。
それなのにどうやって……?
何やら嫌な想像をしてしまった私は、とりあえず深く考えないことにした。

「後は葵が協力してくれると言ってくれればそれで終わりなんだ」

住む事に関しての内容だったはずが、いつの間にか協力をするかしないかの話に変わっている。相変わらず素敵なその王子の笑顔は眩しいのに、それを見たくない私がいた。