吸血鬼の花嫁


「葵。そんな君に頼みがあるんだけど、良いかな」
「頼み、ですか?」
「うん」

ライルド王子はそう言うと、既に銀ナイフをしまっていたサリエフさんに部屋から出るように指示した。

「横に座っても良い?」
「あ、どうぞどうぞ」

私はベッドの端から足を床に降ろしてつける。それから王子が座れるだけの幅を空けて体を横にずらせた。
そういえば、ずっと床に座らせたままだった。いくらなんでも王子様に対しての扱いとしては最悪だよね……。
若干、自分の無神経さに落ち込むも、すぐに持ち直す。
サリエフさんがいなくなった空間に心の底から安心して、私は隣に座るライルド王子に顔を向けた。

「出会って間もない葵にこんなことを頼むのも気がひけるんだけど」
「はい」

ライルド王子は長い睫毛を伏せ、その瞳に影を落とす。本当に申し訳なさそうに見え、私は少し戸惑ってしまった。どんな内容でも引き受けてあげたいと、そんな気持ちになってしまう。

「僕をこの家に住まわせてくれないかな」
「はい。……え?」
「本当?ありがとう!助かるよ!」

王子の言葉に、私は反射的に返事をしていた。つまりは雰囲気に流され、ついつい返事をしてしまったのだ。だけどよく考えてみると何かおかしい。

「ちょっ、ちょっと待って下さい。家に住むというのは一体――」
「この世界では僕も住む場所が無くて困っていたんだ。だから寝泊まりが出来る場所があるのは凄く助かる」