吸血鬼の花嫁



気のせいか、彼の言葉の端々から敵意を感じる。

「やはり人間の小娘。答え方がなっていない。躾が行き届いておりませんね」
「クヤン」
「失礼しました、王子」

駄目だ。どう考えても嫌われているとしか考えられない。丁寧な言葉遣いとは裏腹に、悪意のあるものが感じとれる。ライルド王子が咎めるように名前を呼ぶと、素直に引き下がった彼が目に映った。

「すまない。普段は礼儀正しくて忠実な付き人なんだけど」
「いえ、そんなー……あああ謝らないで下さいっ!」
「いや、無礼な言葉を聞かせてしまったのは僕にも責任が――」
「とんでもない!お、王子様は何も悪くありません!悪いのは全て私なんですっ!」
「葵……君って女の子は……」

私の言葉に感動している様子のライルド王子は知らないのだろう。その後ろで礼儀正しく忠実な付き人が、私をその赤く鋭い眼差しで睨み付けていることを。そしてその手にはどこから取り出してきたのか、どう見ても銀ナイフにしか考えられない代物を持ち、私に真っ直ぐ向けていることを。
本当に駄目だ!このクヤンさん!いやいや、クヤンさんと名前を呼んでも良いのかもわからないこの吸血鬼さん。私、出会って早々殺されるっ……!

「ありがとう、葵。君はやっぱり雛が話していた通りの優しい子だね」
「……いえ。そんなことは……ないです、けど」

ライルド王子に優しく微笑まれ、私はサリエフさんの存在も忘れて恥ずかしい気持ちになってしまった。こんなふうに男性に微笑まれることに慣れていないせいか、顔が自然と赤くなり、どう対処していいかわからない。