彼からの突然の質問に反応が遅れてしまう。それでも雛という名前だけは聞き取れた。
「雛って、如月雛のことですか?」
「うん」
唯一、顔が浮かんだ親友の名前を言えば彼は頷く。
雛の知り合いか親戚?
そう思った考えに頭を振って消し去る。
いや、違う。雛の王子様だ。青い瞳と黒色の衣装。雛があの頃話していた”王子様”の姿と一致してる。
それに何よりもこの人、ううん、この彼はやっぱり。
「貴方は雛の、吸血鬼の王子様?」
「正解。正確には婚約者の吸血鬼、だけどね」
爽やかな笑顔が似合う彼は、吸血鬼だなんて言葉は似合わなかった。優しい口調と紳士的な雰囲気の彼には。だけど出会い頭に血を吸われた後の私にとっては信じられることで……って。
ちょっと待って。私、確か首を噛まれたような気が……。
少しだけ考えて、自分の首もとに手を持って行く。
「……っ!」
「あ、触らない方が良いよ。まだ傷口は完全に塞いでないだろうから」
触れた首筋には確かに二つの丸い穴が開いている感触がした。微かに痛む傷口が、これは現実だと、私にそう教えてくれる。彼は私の手を引き寄せて、手の甲に唇を軽く当てた。
「説明が遅れたね。僕の名前はライルド・ルノア・マディオン。吸血鬼界での王族の血を受け継ぐ第一王子だ。君の名前は?」
「……へ?あ、ああ。私は紺野葵、です」
一瞬何をされたのか理解出来ず、停止した思考を働かせる。そんな様子の私とは別に、気にも止めていないところを見るとこれが王子様の挨拶らしい。
