『葵(あおい)ちゃん』
『ん?』
『私ね、大きくなったらお嫁さんになる』

まだ保育所に通っていた頃。私には可愛い親友がいた。それは大袈裟に言っているのではなく、実際に可愛い容姿をもつ女の子で。当然その女の子は人気者だった。

『お嫁さん?』
『うん!』

保育所の砂場で遊んでいた時。私の名前を呼び、嬉しそうに話す親友の雛(ひな)。
その時、私はお嫁さんになる雛を想像した。白いウェディングドレスに身を包み、小さな女の子が笑っている。そして同時に浮かんだのはお母さんの言葉。

『……雛ちゃん、結婚は”人生の墓場”だから止めた方が良いよ』
『”人生の墓場”って?』
『苦しい所って意味だよ。お母さんが言ってた。結婚は”人生の墓場”だから、初めての時はよく考えて決めなさい、って』

よくわからなかったけど。
そう言葉を付け足すと、雛は悩んでいるのか眉を寄せて目を閉じた。暫くしてから何かを決意したように瞳に力を込めて、声を出す。

『……でも』
『ん?』
『雛、約束したんだもん。花嫁さんになるって』
『誰と?』

いつもなら素直に教えてくれるのに、雛はそれ以上は教えてくれなかった。内緒だとしか言わず、首を横に振るだけ。だけど――。

『葵ちゃん、誰にも言わない?』
『うん、言わない』
『絶対?』
『うん、絶対』

何度も聞く私に根気負けをしたのか、雛は重い口を開いてゆっくり話し始めた。

『あのね、私――』