なるほど、
僕はある日の事を
思い出していた。

それは、運動神経の良い僕が
めずらしく、階段から落ちた時。

先生がお姫様抱っこをして
保健室まで連れてって
くれた事があった。

きっとその時に
教頭先生が見ていたのだろう。

だがしかし、やっぱり
今回のような
やり方は良くないと僕も思う。

「別に末島に
特別な感情があって
やってる訳ではありませんよ」

そりゃそうだ。

あの時だってたまたま
通り掛かったのが先生だっただけで。

「私には、そう見えたんです」

ありえない。

先生に対しても
失礼だと思わないかなぁ。

「そぉですね、しいて言えば、
[親心]ですかね。」

はい?

「心配だから、
つい優しくしてしまう。

そんな感じですよ。
言いたい事はそれだけですか?」

「それでは、失礼します」

「先生、手」

「あぁすまん」
と言って手を離してくれた
先生の横を
歩いて、校長室に行った。

コンコン。

「校長先生、いらっしゃいますか?」

聞くまでもないけど。

「その声は末島くんかね?」

「はい。」

「まぁ入りたまえ」


「失礼します。
あの木下先生も一緒なのですが」


「そうか、
木野下先生も入りたまえ」


「「失礼します」」

「それで、どうしたのかね?」


「噂を流していた者が分かりました」

聞いたら吃驚するだろう。

「なんと
それは誰だね?」

「非常に申し上げにくいのですが……」

そりゃ言い難いよね。

なんせ教頭先生だったんだから。

「言い難い人物なのかね?」

「はい……」


「僕が申し上げます」

「末島!?」

「どうせ言わなきゃ
ならないんだから
先生が言おうと
僕が言おうと一緒でしょ?」

「それで、誰なのかね? 未島くん」

「教頭先生です。」

僕が答えると校長先生は
ガタッと音をたてて
椅子から立ち上がった。

「なんだって!?」

校長先生も、予想外だったんだね。

「もう一度言ってくれないかね?」

今度は先生が答える。

「教頭先生です。」

「何て言う事だ……

彼女が……

して、彼女は今何処に?」

「進路指導室に居ます。」

そう、さっきまで、
僕達が居たのは進路指導室。

其処から校長室までは
さほど距離は無い。

「分かった。
二人ともご苦労だった。
彼女には処罰を言っておく」

「そうだ、一つだけ
木野下先生に訊きたい」

「なんでしょうか?」

木野下先生に
訊きたいこと?

「末島くんに、その……
恋愛感情はあるのかね?」

「いえ、まったくありません」

「そうか。
末島くんも行って良い」

「「失礼しました。」」

二人は校長室を出た。

「これで一件落着だな」

「そぉですね」