「奏汰・・・」
マスターが眉尻を下げて俺を見る。
「お店、もう少し開けとこうか」
そう言われてハッと時計を見ると、もう既に閉店時間を過ぎていた。
これ以上はもう駄目だ。
「いや、俺、やっぱり帰ります。」
「お前・・・良いのか?」
「え?」
いつになく真剣な目なマスターに、少しだけ後ずさりする。
「良いか、奏汰。俺は峰子さんにフられた!」
いきなし何を言うのかと、引き詰めた顔を一気に崩して俺は「はあ?」と目で言った。
「原因は俺が慎重過ぎたからだ。あまりに大事にし過ぎて、それが返って裏目に出たんだ。」
「・・・」
「お前がユイちゃんを大事に思ってるのはよく分かるけどな、どうだ奏汰、たまには冒険してみろよ?」
「冒険、ですか」
俺が苦笑いしながら言うと、マスターは黙って頷いた。
行って来い、と言わんばかりに。
俺に・・・そんな権利があるか?
ユイが抱えてる「何か」を、俺が受け止めてやれんのか?

