「傘は?」
「・・・持ってない」
嘘をついた。本当は店の傘立てに忘れて来たんだ。
ユイはそれに気付いて居るのか気付いて居ないのか、黙って一歩近付いて、俺が入れる様に傘を持つ手を伸ばした。
「はんぶんこ」
そう言って笑うユイが愛おしくて、抱き締めたい衝動に陥った。
「どうしたの?」
「ああ、いや、俺が持つ」
理性を保って、ユイから傘をひょいと取り上げて目を逸らした。
俺の胸ぐらいしか無いユイの身長。
その歩幅に合わせて、ゆっくりと雨の中を歩く。
俺もユイも黙ったまま、ただ雨の音と二人の足音が響いていた。
でもそんな沈黙が、心地良いとも感じたんだ。

