「奏来、ただいま」


“おかえり、翔ちゃん!”


学校が終われば奏来ん家へ一旦帰るのが日課になっていた。


兄貴は。


ここでもなく、家でもなく、近くの小さなアパートへ引っ越した。


おばさんと奏来だけの家は、少し、寒い。


“今日、遅かったね?”


「うん。花音に話してきたんだ」


“…そっか”


「傷つけたとか考えんな。奏来は何も背負うなよ。これはオレと花音の問題だから、さ」


奏来はただ俯いただけだった。


「今日、ここでメシ食ってもいい?」


“うんっ”


頷く奏来を見て、オレは花音の影を消す。


奏来がいればいい。


奏来だけが笑ってくれればいい。


いつだってそう願ってきたはず。