真夜中の情事

「んっ・・・んんあぁ~・・・!」

ここがネットカフェで、狭くて薄暗くて、声なんか出したら丸聞こえだという個室であるということを彼はすっかり忘れているらしい。

眠たそうな顔をして、大きく両腕を伸ばしている。

「おはよ・・・」

なんともなしに声をかける。

彼のその声で、また顔を熱くさせた。

恥ずかしくて彼の顔を直視できないのもそうだが、私がまだ彼の腕の中にいるということも大きな要因ではなかろうか。

私の返事を待っているのだろうか。

二人の間に沈黙が訪れた。

「お、おはよ・・」

小さく、呟いた。

果たしてその声が彼に聞こえたのかどうかは、定かではないが。

また沈黙。

聞こえるのは空調の音とか、周りにいるお客たちの発する雑音とか、あと店内のBGMとかだけ。

目の前にあるテレビはいつの間にか電源が消されていた。

だから、この個室にいる私と彼の間の沈黙を破るような何かは何もなかった。

こっちからアクションを起こさないと、しばらくはこのままだ。

沈黙に耐え切れなくなった私はわざとらしく明るく振舞った。

「テレビ、点けよっか。てか、もう朝だよ~・・・ハハッ。ほら見てみて、時間。どうする?ここって何時までいてよかったんだっけ?もう出る?あっ、てか先になんか飲み物持ってこよっか?何がいい?」

わざとらしすぎる・・・自分でも引くぐらいにひっきりなしに言葉を連ねていた。

意識しているけれど、意識していないような、そんな感じのまま。

「なあ・・」

彼がそう言い掛けたところで、なんだかここには居たくなくなって、逃げるように個室のドアを潜り抜けた。

「何か飲み物持ってくるね」

そう言って、彼の言葉から逃げた。

別に悪いことしてるわけでも、彼に怒られるわけでもないってのは分かってるんだけど。

なんとなく、自分の中で彼の口から吐き出される言葉が分かっていたから、だと思う。

なんとなく、ではあるけれど。

朝の陽光が入り口にある前面ガラス張りのドアから注がれていた。

腕時計を見るともう朝の8時。

私はようやく今いる自分の状況を冷静に見ることが出来ていた。