明くる日、彼の腕の中で私は目を覚ました。

小鳥がさわやかに朝のBGMを流しているわけでもない。

店内には依然として他人行儀なBGMが垂れ流されつづけているだけだ。

目を開けると私の身体を掴んで離さないような格好の彼がいた。

文字通り私は身動きがとれそうにない。

彼が目を覚ますまでしばらくはこのままだろう。



昨夜・・・いや、さっきか。

彼の唇と激しい殴り合いでもしたかのようだった。

おかげでこれまでにないほどの腫れが唇に出来ていた。

中指と人差し指で自分の唇に触れる。

ふっくらとした唇、唾液を多く含んだ彼の熱い唇のことを想起させる。

瞬間、顔面に熱湯でもかけられたかのように顔が熱くなる。

その熱さはそんまま身体の中を駆け巡って、下半身へと向かう。

行き着いた先は一つしかなかった。




「なんで・・・あんなこと・・」

昨夜の彼の突然のキス。

不覚だったし、でも嫌だったわけでもない。

あれくらい乱暴なキスのされ方、嫌いじゃない。

むしろ好き。

でも、どうして彼だったのだろう。

そして、どうしてこのタイミングだったのだろう・・。

太陽が昇った今朝。

彼から乱暴に奪われたキス。

私の隣でぐっすりと眠っている彼の姿。

私にとってはどの事実も光景も曖昧なものでしかなかった。

この現実に、どこか共鳴できないでいる自分がいた。