居間に行くと、

ばあちゃんが笑顔で出迎える。




「ばあちゃん、早苗から聞いたけど

じいちゃんの仁平って…」


「取っておいてよかった、よかった。

サイズが合えばいいんだけどねぇ」


「大事な物なんじゃないですか?」


「箪笥の肥やしになるより

若いあんたたちに着てもらったほうが

仁平もお父さんも喜ぶと思うしなぁ」




ぁあ、そっか…

ばあちゃんがさっき

嬉しそうにしていたのは

直之が『花火大会は予定通り』って

言ったからだったんだ。




きっと花火大会に行くって

言ったときから、仁平を出してきて

準備しててくれたんだろう。




ばあちゃんは2枚の仁平を

それぞれに手渡した。




俺は、麻生地で出来た紺色のもの。

直之も、麻生地で出来た白のもの。

俺のはシンプルだけど、

直之のは袖口が青くなってて

中々オシャレだ。




サイズは少々小さめだったけど

紐を調節すれば何とかなるレベルだった。

仁平の袖丈などが、手直しされていた。

ばあちゃんがやってくれたんだ、と

即座に2人とも分かった。





「2人とも、よぉく似合ってるよ」


ばあちゃんが嬉しそうに言う。




「ありがと、ばあちゃん。

じいちゃんに仁平借りるって

言っておかなきゃだな」


「うん、そうだな」




仁平姿でばあちゃんの部屋に行き、

仏壇に手を合わせる。




『じいちゃん、汚さず返すようにするから

ちょっとだけ借りるね』










お線香の煙りが、

なんだか懐かしかった。