夏 色 の 風





ばあちゃんはその後ろ姿を見送ると

豆腐コーナーに向かった。




早苗が車の中で、

冷や奴が食べたいと言ったのを

思い出したからだ。




数ある豆腐の中から、

早苗の1番好きな

『カツマ豆腐店』の絹を手にとる。




カツマ豆腐店は、このスーパーの近くにある

豆腐店が持ち込んでいる物で、

他の並べられた豆腐より割高だが

これが早苗の大好物なのだ。




そういえば…と、

早苗が来たばかりのころを思い出す。

随分甘やかされて育てられたらしく

好き嫌いが本当に多かった。




トマトもしかり、豆腐もしかり。




もう何十年も子供を

育てていないばあちゃんは

近所で孫と同居している知り合いなどに

年頃の子供が好む食べ物を聞いて

口に合うように努力した。




一緒に食事をすれば

ぎくしゃくしていた関係も

だんだん解れていくと共に、

早苗の好き嫌いも治っていった。

今ではブランドやメーカーを

指定するほどである。