唾を飲む音が聞こえる。
こちらも身構えて、もはや
宿題どころじゃないな、と
真剣な顔をした。
「実はな…」
「うん」
「寝てる円香にキスしちゃったんだよ」
寝てる円香にキスしちゃったんだよ
寝てる円香にキスしちゃったんだよ
………え?
「ええぇぇぇーっ?!
お前、さいっ…ふがっ」
想像以上にでかい声になり、
直之に慌てて口を抑えられる。
無理矢理剥がし、空気を存分に吸ってから
「つまり、ど…どういうことだ」
直之は眉を下げて、
可哀相な子犬のような顔で
昨夜のことを話し始めた。
昨夜、俺達が出て行ったあと
しばらく怪談を続けたが
リアクションを取る人がいないので
すぐにシラけてきて、
学校のことや友達の話し、
そして恋ばなにまで発展したらしい。
「今好きな人いんの?」
直之の問いに顔を赤らめて、
円香は小さく頷いた。
「えっ、学校の人?」
「ううん…違う。
すごく優しくて、顔は普通なんだけど
友達に自慢したくなっちゃうような人」
この時の円香の顔に
直之の胸が――キュウン、と
音を立てたらしい。
誰かは分からないけど、
円香の好きな奴に激しく嫉妬した。
「直之は?」
「お、俺?好きな人はいないけど
気になってる人はいるというか…」
目の前に。

