夏 色 の 風





居間に行くと、ばあちゃんが電話してて

俺の姿を見ると手招きする。




「ちょうど良かったわ、亮ちゃん!

菜々子から電話だわ」




菜々子ってのはうちの母親。

もうすぐ45歳の心配性だ。

電話を代わると、いつもの高い声で


『あぁ、亮佑!

ちゃんとばあちゃん家行けたね』


なんて、小学生じゃあるまいし。




「これくらい、余裕だっつーの」


『あら、母さんも父さんも心配してたのに。

あたし達は今、

ドイツのフランクフルトにいるの!

乗り換えでね、あと2時間もあるのよ』



「あっそ。…てかコレ国際電話?!

ばっかやろ!高くつくじゃねーか!

用がないならさっさと切る!」


『ああん、待ってよぉ!

いい子にしててね。おばあちゃんに

迷惑かけるようなことしないでよ!』




いい歳して、なぁにが

"ああん、待ってよぉ!"だ。

気色悪い。




「はいはい!」


『もぉ、"はい"は一回だけ!

じゃあね亮佑、身体に気をつけて!』




俺は母親の中で何歳児扱いされてんの…




電話を切ると、無駄に疲れた。

麦茶の氷が、カラン、と音を立てた。