出発の時間になった。

早苗は、帰って来なかった。




母も諦めがついたのか、潔く車に乗った。

俺はばぁちゃんに1ヶ月分の礼と、

急遽用意したモノを預ける。




「お世話になりました」


「またおいで。待ってるからね」




俺も車に乗り込んだ。

今日は隣ではなく後ろに乗る。

さぁ、命懸けの帰宅の始まりだ!




ばぁちゃんは、車が見えなくなるまで

手を振ってくれた。

俺も、ばぁちゃんが見えなくなるまで

たくさん手を振った。




こうして、俺の1ヶ月近い

ばぁちゃん家での生活が終わった。




円香からは、見送りに行けないと

メールが来ていた。

昨日押してもらった背中は、

ちゃんと前に進めたぞ。




「ぁーあ、早苗ちゃんに

一目会ってから帰りたかったのに」


「そんなに早苗に会いたいのか?」


「会いたいわよー!

だーって早苗ちゃんが…ぁ、

やっぱやめとくわ」


微妙な所で口を閉ざす。

問い詰めたいところだが、車が

赤信号で止まったらにしよう、そうしよう。




わざとなのか、早苗の学校の前を通る。

勿論、帰宅途中の早苗発見!なんて

偶然はありえるはずもなく。

帰宅途中の生徒が何人かいただけだった。




「ちぇっ」


「普通にありえないから」


「奇跡を信じたかったの!」


「ほら、ちゃんと前見て運転してくれ。

家まで俺の命があるか不安だよ…」




ぶつぶつ文句を言いながら、

母は運転に集中し始めた。




俺は、尻ポケットに入れておいた

あの手紙を引っ張り出し、

もう一度最初から読み返す。