夏 色 の 風





今回は多分、父親の海外赴任のことだろう。



「向こうのお義母さん、来るのかい」


「そーなのよぉ。お父さんてば

肝心のお義母さんに海外赴任のこと

全然言ってなくて、出発直前に

電話1本で済ませたのよ。

で、昨日帰国したらあたしの携帯に

着信18件も入ってたの…。

かけ直したら、電話じゃ煩わしいから

直接家に来るって始まっちゃって。

そんな訳で、今日中にこっち出て

明日は1ヶ月放置した家の掃除しなきゃ」


俺に向けて軽いウィンク。

その意味を想像して、ぞっとする。




「何時頃にこっち出るんだい?」


「んー…出来るだけ早いほうがいいから

遅くても15時には出たいわね。

夜中の高速走りたくないし」




母はスピード狂なので、

夜中に高速を走るとかなり飛ばす。

以前、スピード違反で捕まってから

夜の高速が嫌いだと踏ん反り返る。

正直、いつも隣に乗る父も俺も

母の運転する車に乗るだけで

寿命が削られていく気がする。




あぁ、今回俺は無事に家に

帰ることが出来るのだろうか…

不安だ。むしろ不安しかない。




俺の部屋で時間まで寝る、と

母が居間を出て行ったので

俺とばぁちゃんで掃除をパパッと終わらせ

畑仕事に取り掛かった。




「今日でお前らとも最後か…」


野菜なんて、スーパーに行けばあって

当たり前のように存在している物だと

以前の俺は信じて疑うことはなかった。



けど、ばぁちゃんの家に来て

野菜と直に触れ合って、

手をかけた分、美味しい野菜になると

初めて心から感じることが出来た。

頭で理解し、分かっていても

実際に体験し、感じ取ることが

いかに大切か分かった気がする。



見るのも苦手だったトマトも、

ミニトマトなら食べられるようになった。

これも、ばぁちゃん家パワーのおかげだ。