夏 色 の 風





ばぁちゃんがいなくなった途端、

不敵な笑みを浮かべて俺に張り付く。


「なっ、なんだよ?

そこまで近いと食べずらいだろ」


「ふっふっふ〜。

さ・な・え・ちゃ・ん♪

可愛くなってたでしょー?」


飲み込もうとしたみそ汁が、

慌てて食道ではない方に流れようとして

俺は一人むせてしまった。

母はそれを見て、ニヤニヤ顔が止まらない。


「ははぁン?何かあったわね?

ま・さ・か…母さんには言えないような

むふふ〜ンなことが

あったんじゃないでしょうね?」


「俺にどんな期待をしてるんだ!

それが母親の言うことかよ?!

俺に何も言ってなかったくせに」


母は首を45度に傾げ、

右手でグーを作っておでこに乗せ、

ちょっぴり下を出して言った。




「あれ、言ってなかったっけ。

そりゃ失敬☆」




俺は笑顔で母親にげんこつを食らわせた。




「ひどい!何すんのよー」


「『そりゃ失敬☆』で

許される訳ないだろうが!

まったく…俺の苦労ってやつをだなぁ…」


「ほーう?この様子じゃ…

亮ちゃん、早苗ちゃんに恋したわね?」


今食べたばかりの卵焼きが、

気管と食道を間違えて入りかけた。

そんな訳で、俺は再びむせる。


「は?!」


「ほーら、やっぱりぃ。

母さんにはごまかせないぞ☆

そっかそっかぁ。じゃあ母さん、

2人をくっつけたキューピッド?

ぁ、でも引きはがしちゃうから…」




母のテンションに1度

足を踏み入れたら最後。

母が満足するまで解放して貰えない。

直之命名"菜々子砂地獄!"。


見事に嵌まった俺を救出してくれたのは

やはりばぁちゃんだった。




「いい加減にしなさい。

いいから、早く朝ごはん

食べちゃいなさい。

もう9時近いんだから」


久々の"無言の圧力"発動で、

俺も母さんも黙り込んだまま

ひたすら目の前のご飯を食べた。