そんなことがあるのか。

いや、あっていいのでしょうか。




顔を洗い、身支度を整えに部屋に戻ると

廊下でばったり早苗と遭遇した。


「おぉ、早苗。おはよ」


「…おはよ」


素っ気ない挨拶はいつものことだ。



それよりも俺は、昨夜について

直接早苗に確かめなければならない。


「あのさ、昨日の夜のことなんだけど」


「…何?もしかして晩御飯

起こさなかったの怒ってるの?

だったら筋違いね。人のせいにしないで」


早苗はそのまま行ってしまった。




…やっぱり俺、晩御飯前に居間で寝て

早苗に告白するっていう夢を見たのか…?

どこから夢なのかもさっぱり分からない。




"夢オチ"という言葉が、

段々現実味を帯びてきてしまった。




あんなに勇気を振り絞ったのに。

人生初めての告白だったのに。

まさかまさかの"夢"だったとは…。




居間に戻ると、早苗は既にいなかった。

円香情報では最近立石が演劇の練習に

格好づけて、早苗と一緒にいたがるらしい。

早苗は相当嫌がってるが、体裁は

"劇の練習"のため逃れられないのだとか。

立石は本当に俺の恋路を邪魔したいのか

応援してくれているのかよく分からない。

今日も多分、朝から"練習"だろう。




最後の日くらい、一緒に朝食を

食べたっていいじゃないか。

昨日一緒に食べてないんだし!

…夢では2人きりで食べたけど。夢では。




「早苗に亮ちゃんに挨拶して

行きなさいって言ったんだけどねぇ。

帰りに間に合えばいいんだけど。

亮ちゃんも早く食べないと、

菜々子来ちゃうよ」


「分かってるって。母ちゃん来たら

色々めんどくさそうだなー…」




ぼやきながら、いただきます。

皿に盛られた卵焼きは、

早苗の弁当の残り物で出汁がきいている。




それを、横から手で奪っていく腕があった。

見覚えのある色白な腕。

まさかと思い、振り返る。