夏 色 の 風





――ちょうど、その時だった。




ジーパンの尻ポケットに入れていた

携帯が着信を知らせる。




こんな時に…と携帯をチラリと見れば

ディスプレイに"円香"と表示されてある。


「ちょ、ちょっとすいません!」


席を立ち、出入り口近くで電話に出た。




「もしもし?」


『あ…直之?今、輝ちゃんと一緒?』


「えっ?ぁあ、うん。そうだけど」




それよりも、昨日のことをどう謝ろう。

直之の頭にはそれしか浮かばない。

円香はいつもの明るい声ではなく、

電話越しでも緊張感が伝わって来る。




『代わって』


「は?」


『今すぐ輝ちゃんと代わって』


「わ、分かった…」




いつもとどこか様子の違う円香に、

直之は困惑しながらも席に戻った。




「電話の相手が、代わってくれって…」



あえて彼女という言葉は使わない。

あんなことのあとだし、円香が

輝に何の用なのか分からないからだ。


「まぁ!彼女さんからですか?

グットタイミングですわ!」


彼女ではないのだが、

やや興奮気味の輝に携帯を渡す。


輝は電話に出るとすぐ、

席を立って店の奥に消えた。

どんな話をするのか気になったが、

店の奥に消えたので

追い掛けることも出来ず

席に座り直し、アイスコーヒーを飲む。

古山田は店が少し賑わってきたので

手伝いにいっていた。




1人の時間が15分程続いただろうか。




少し目を潤ませた輝が、

携帯を握りしめ戻って来た。




2人の間で何が起きたのか、

さっぱり分からない。