夏 色 の 風





――コンコン。




「円香?」


母親の声にハッとなり、

円香は部屋の扉を開けた。


「コレ、鳴ってたわよ」


携帯をリビングに

置きっぱなしだったらしい。




ピンク色の携帯が着信を告げる

ライトを点滅させていた。




「亮佑くんからみたいだけど?」


「ぇ、亮佑から?…っていうか、

娘の携帯を勝手に見ないでよ!」


「置きっぱなしにしてる

円香が悪いんじゃないのー。

お母さんに当たらないでよ、もぅ」




仕返しのように探るような視線を向けた母を

どうにか部屋から追い出して

円香は携帯を開いた。




母が言った通り、亮佑からの着信で、

すぐにかけ直したが話し中だった。

円香はため息をつきながら

携帯をベッドに放り投げた。




――絶対おかしい。




普段なら、例え早苗関連の話しでも

亮佑からの電話で心躍る。

リビングに携帯を置き忘れるなんて

絶対に有り得ないことだ。

亮佑からいつ電話が掛かってきても

すぐ出れるように携帯を肌身離さず

持ち歩いているから。




それなのに、いつもと

真逆のことばかりしている。




「はぁ…」




もう何度目かも分からないため息と共に

"あいつ"の顔が頭に浮かんで、

円香は勢いよく首を横に振った。




「もぉ…!!

あたしが大好きなのはっ

亮佑と立石先輩だもん!

変なことに巻き込まれたせいで

頭がおかしくなったんだ…絶対そうだぁあ」




うわぁーん!と円香は

抱えていたクッションを

力いっぱい抱きしめ、自分も

ベッドにダイブした。