夏 色 の 風





――磯島 円香。




直之の想い人だ。

あの殺人級のスマイルにやられ、

あの殺人級の寝顔に心が揺れた。




円香が亮佑を好きなのかも、と

気付いたのは割と早めだった。

亮佑の目には早苗しか映っておらず、

円香の淋しそうな顔を見ては

胸が締め付けられそうになった。




渾身の告白、フラれて、別れのキスをした。

たった数日前なのに、もう随分

昔のことのように思う。




そんな想い人に、

こんなくだらないお願いをするのは

どうなんだろう。

別の意味で心が揺れている。




革紐のブレスレットについたガラスが

鈍い光りを放つ。

直之はため息をついて携帯をとじた。




やっぱり、円香にこんな

お願いをするのは間違っている。




そう思った時。




携帯がわずかに振動した。

常にマナーモード派の直之は、

ディスプレイに表示された名前に、

思わず二度見してしまった。




「…まじかよ……」




――科野 輝

――科野 輝

――科野 輝

――科野 輝




間も置かず4通連続のメール。




一応メールを開いてみると、

3通が輝からのネトネトラブメールで、

残り1通が古山田さんからの謝罪メール。




直之の理性は一瞬で崩れた。

迷わず円香のアドレスを開き、

メールを作成した。




『今大丈夫か?』




30分もしないで、返事が返ってくる。




『大丈夫だよー☆何なにー?

どーしたのー?』




直之はすぐに、円香に電話をかけた。