「損得の問題ではございません。
1日に2度も偶然お会いするなんて、
わたしには"運命"としか思えませんの!
ですから、もしあなた様に
お付き合いされている方が
いらっしゃらないのでしたら、
わたしと…その、
婚約していただけたらなぁ…なんて」
キャッと両手で顔面を抑える輝。
直之は、自分のキャパシティーを超えた
輝の発言に思考が完全に止まった。
今、目の前の彼女は何を言った?
――"運命"?
――"婚約"?
"お付き合いされている方が
いらっしゃらないのでしたら、
わたしと婚約していただけたらなぁ…"
――この子、痛い子だ。
やっと再起動した直之の脳みそが
そう呟いた。
「輝さんはご冗談がお上手ですね。
ははは、はははは」
そんな言葉しか思いつかない。
引き攣った笑い声が今の心境を如実に表す。
だが、ムッとした表情で
輝は頬を膨らませて言い切った。
「わたしが冗談で申し上げていると?」
「…は?まさか本気で?」
「もちろんですわ。
運命のお相手を見つけたんですもの。
王子様とお姫様は結ばれる運命でしょう?」
――ますます、痛い!!
輝は自分をお姫様だと
思っているのだろうか。
いや、思っていなければ
今の発言は出てこないだろう。
さっきの女性が、会計を済ませた
コーヒー豆を運んできた。
だがこの席に漂う、ただならぬ空気を
感じ取ったのだろう。
ため息をつき、テーブルの横で仁王立ちした。
「輝さん、お客様を困らせないで下さい。
仮にもこの店の店長でしょう!」
「あなたは引っ込んでいて下さい。
わたしは、この方とお話しています」
「お嬢様!!いい加減にして下さい。
まさか、また婚約を迫ったんじゃ…」
「このお方こそ、わたしの王子様ですわ。
わたしの目に間違いは有り得ません」

