夏 色 の 風





「何か、お困りですか?」




店の奥から、小柄な女性が出て来た。

その顔に見覚えがあり、

直之は小さく声を上げる。

女性も直之の顔を見て、声を上げる。




なんと、奥から出てきたのは

先程図書館で出会った少女だった。

少女も目を丸くさせ、小さく会釈する。




「ぁ、輝さん。ちょうど良かった。

こちらのお客様が…」




少女――科野 輝(シナノ ヒカル)は

カウンターから外に出てきた。

なんだか大事になってしまった…と

直之の笑顔が微妙に引き攣る。




「わたしが対応しますから、

あなたは仕事に戻って下さい」


輝は女性にそう言うと、

直之に可憐な笑顔を向けた。


「先程は助けていただき、

ありがとうございました。

まさか、こんなにすぐ再会出来るなんて

人生何があるか分かりませんわね」


クスクス笑った輝は、

直之を近くのボックス席に案内する。

少しの抵抗をしてみるが、

顔に似合わず強引な輝に圧倒され

ボックス席に座った。




「お飲みは何がよろしいですか?」


「ぁ、俺は大丈夫ですから…」


「コーヒーはお好きなんですか?」


「普通に飲みますけど…」


「では、アイスコーヒーを2つ」


「えぇ?!本当にいいですって!」


今財布の中身が淋しいことは秘密である。




輝がカウンターの奥に声を掛けると

すぐにアイスコーヒーが届く。




あぁ、今月はもう無駄遣い出来ないのに。




輝がアイスコーヒーに

ミルクとガムシロップを入れ、

掻き回すのを眺めながら内心ため息をつく。