少し休んでから中に入り、
返却用カウンターの列に並ぶ。
直之の前には2、3人がいたが
2分も待たずに順番がきた。
「よいしょっ…と」
親父臭い掛け声と共に、
本の山をカウンターの上に乗せる。
眼鏡を掛けた50代くらいの女性の司書が
無表情に山から1冊とり、
もう片方の手でコンピュータを
カタカタさせた。
だがすぐに、眉毛が微妙に動く。
「…返却日が2ヶ月前に過ぎています」
機械的な声で言う。
眼鏡の奥の目が鋭く、
直之は猫背の姿勢を正す。
「す、すみません……母が、」
「これからは気をつけて下さいね。
本を借りたいと思っている人のことを
しっかり考えて下さい」
「き、気をつけます……」
言い訳は一切通用しないようだ。
ゲッソリしてカウンターを離れた。
まったく…なんてことだ。
"絶対命令"なんてしなければよかった。
何故母親の罪を息子が
受けなければならないのだ…。
頭痛がして、足元がフラフラする。
咄嗟に近くの本棚に手をつく。
重たいため息を吐き出し、
首をぐるっと回した。
その視界の隅に、一人の少女が映る。
爪先立ちで手を限界まで伸ばし、
一番上にある本を取ろうとしていた。
どうしようか少し迷う。
台などを使えばいいのに、と思うが
近くを見回しても見当たらない。
こういうとき、アイツはどうするだろう…。
頭に浮かんだ、いかにも頭が悪そうで
アホさ全開の親友の顔。
アイツなら絶対手を貸すんだろう…。
「手伝いましょうか?」
完璧な作り笑いを顔面に貼り付けて、
直之は少女に近付いた。

