夏休みも、もう終わりに近付いている――。






直之は、うだるような暑さの中

紙袋いっぱいに詰められた本を

両手でぜぃぜぃ言いながら運んでいた。




本当なら、クーラーの効いた部屋で

のんびり漫画本でも読んでいたはず。

それが、母親の"絶対命令"発動で

仕方なくぜぃぜぃ言う羽目になった。




"絶対命令"とは、亮佑の田舎に

遊びに行った際、お金が足らず

母親に借りたときに立てられた

『母親の言うことを3つ聞く』という

条件の1つだ。

他に、2つ程条件がある。




(…こいつは親じゃない。悪魔だ)


何度思ったことか。




こっちに帰って来てから、

"絶対命令"を乱用されている。

もうとっくに3回は過ぎているが、

最初から守るつもりもないのだろう、

お構い無しにこき使われている。




今日は借りっ放しだった図書館の本を

返しに行く、という"絶対命令"だ。




図書館までは歩いて20分、

しかも立地が坂の上と最悪だ。




行きたくなかったが、

一度"絶対命令"に背いて

痛い目を見てるので、

渋々向かっている。




汗だくで図書館に着くと、

入口の側に座り込む。

この暑さの中、厚さ5cm以上はある

本8冊と、何故か英和辞典2冊。




イジメにしか思えない。

本当に泣きたい。泣いてしまいたい。