早苗は何も言わない。
そりゃ、そうだよな。
ぁー、玉砕フラグ立ち…
指の間から早苗の顔を窺う。
でも下を向いているため、
よく分からない。
…どうしよう。
この沈黙が重い。
「…馬鹿。亮佑の馬鹿!!」
「えっ…ぁあ、馬鹿ですけど」
とっさに肯定してしまった。
いや、嘘ではないから別にいいけど。
「あたしのこと、"お前"とか
"コイツ"とか"胡瓜泥棒"とか!
軽く思い出しただけで6回は言ったー!!」
どんな怒り?!
ていうか約1ヶ月一緒にいて
ほぼ毎日同じ家にいたのに
"早苗"以外の呼び方をした回数を
なんで覚えてらっしゃるんですか?!
「…そこ?」
思わず笑ってしまう。
早苗はしかめっ面だが。
「だって……」
早苗が恥ずかしそうに、
だけど顔はしかめっ面のままで言った。
「隣にいてくれる人に、
他人行儀にされたくないもの」
「…え?」
ここは聞き返す所じゃないが、
でも、聞き返えせずにはいられない。
どういうこと?
「早苗…?」
早苗の顔は真っ赤だ。
慌てて下を向き、隠そうとしているが
隠しきれていない。
「俺、隣にいてもいいのか?」
黙ったまま、無反応。
俯きながら、赤い顔で
今にも早苗は泣きだしそうだ。
「早苗………俺は、お前が好きだ」
自分の口からスラリと出てきた言葉。
さっきは胸やけがした。
今度のは胸がすっとした。