夏 色 の 風





早苗がハヤシライスを運んで来るまで、

必死に脳みそを動かしてみたが

やっぱりいい案は浮かばなかった。




もしかして本当に俺の頭は

筋肉で出来てるんだろうか…

軽く落ち込む。




「お待たせ」


いつもの定位置に座り、

2人で手を合わせた。


「「いただきますっ」」




ばあちゃん家最後の晩餐(かもしれない)が

早苗と2人きりとは。

しかも、俺の好きなハヤシライスで。




早苗が劇について話し出したので、

俺は黙って聞いていた。




円香の言っていた兄と妹の禁断愛は

早苗がギリギリ止めたらしい。

代わりに、2人で父の日のプレゼントを

買いに街まで出かけ、宝石泥棒と遭遇し

人質になってしまい、2人で協力して

犯人グループを撃退して

父親にお菓子の家がプリントされた

ネクタイを買う………という話しらしい。




円香の役の意味が分かったぞ。

本物のヘンゼルとグレーテルで言う、

魔女役ってことだな。

やっぱり円香はお姫様ってキャラじゃない。




円香の話しも出たので、

早苗に円香の心境の変化を報告した。

少なからず分かっていたようで、

「やっぱりね〜!

最近いっつも、直之の話題が

1日1回出るのよ!あの円香がねぇ。

どうして遠距離になった途端、

そうなっちゃったのかしら」




ぁあ、そうか。

早苗は、円香と直之が

"亮佑と早苗をくっつけ隊"とかってやつを

結成したのを知らないのか。

…知ってたら知ってたでマズイけど。




「さ、さぁ?離れてお互いの

良さが分かった?みたいな?」




早苗が怪訝な顔を向けて来たが、

黙々とハヤシライスを食べることに集中し

それをスルーして切り抜けた。