夏 色 の 風





居間に早苗はいなかった。

テーブルには、山盛りサラダが置いてある。




台所に行くと、早苗は鼻唄交じりで

温め直しているハヤシライスの

ルーを掻き混ぜていた。




「何の曲?」


「美空ひばりの、川の流れのように」




渋っ




「早苗って、そういう

懐メロ系が好きなわけ?」


「嫌いじゃないかな。

イチ押しはキャンディーズかしら。

スーちゃん大好きだったのに…

亡くなったのよね…」


「ぁ、ああ。ニュースでやってたな」


「あたし、ミキちゃんファンだけど…。

キャンディーズの再結成を夢見ていたのに

本当に悲しすぎるわよ…。

ミキちゃんも表舞台にカムバックしないし、

ランちゃんは旦那様のドラマが

大ヒットしてるから幸せよね」




うっとりするように言って、

早苗は別の曲を鼻唄し始めた。

曲は、おそらくキャンディーズ系。

俺にはよく分からないけど、

母さんがカラオケに行くと歌う曲だ。




「あ、あのさ。早苗」


「んー?お腹空いたなら

先にサラダ食べてていいわよ。

もうすぐ、温まるから」


「はい…」




お腹は確かに空いてる。

けど、違うんだってー!!

俺が言いたいのは、別なことなのにー!!




なんて切り出そう…

迷いながら胡瓜をポリポリ口に運んだ。