俺がばあちゃん家に帰り着く頃には、

もう美味しそうな晩御飯の匂いがしていた。




うん、今日はハヤシライスっぽい。




いつだったか、ばあちゃんに

好きな食べ物を聞かれて、

ハヤシライスと答えたことがある。

トマトそのものは食べられないけど、

ハヤシライスは大好きだ。




「ただいま、ばあちゃん」


居間には、ばあちゃんはいなくて

早苗が部屋着姿で寝転び、

テレビを見て笑っていた。




俺の存在、完全スルーですか…。

ため息混じりに部屋に戻ろうとすると、

後ろから声をかけられた。




「ばあちゃん、樽澤さんのとこ行った。

帰り何時になるか分からないから

ご飯食べてなさいって」


「珍しいな、ばあちゃんが

樽澤さんの家に行くって」




大体樽澤さんが来て、酒を飲んで

ふらふらしながら帰るか、

隠し部屋に泊まっていくかだから、

ばあちゃんが出向くことはあまりない。




樽澤さんの家は歩けば

3分と掛からない場所にあるのだが、

『ナツさんを歩かせたくないから』と

樽澤さんがやって来るのだ。

"愛の力"ってやつだろう。


そう考えると、樽澤さんは

プレイボーイなんて呼ばれているが

実は結構誠実じゃないか。


まぁ、あの笑顔にヤられてしまったら

そうなっちゃうんだろうな…。

しみじみ、納得してしまう。




話しは逸れたが、何故ばあちゃんは

今日に限って樽澤さん家に

行ったんだろう…。




「樽澤さんが腰を痛めたらしいわ」


あっさり答えを言い、早苗は少し笑った。


「亮佑が難しい顔するなんて、

ちょっと笑えるわね」




久しぶりに笑ってくれたかと思えば…。

出ました!早苗のツン攻撃!