夏 色 の 風





「そうか、なら良かった。

君に1発完治祝いを贈るところだったよ」


「は、ははは…」


「ふふふ」


「笑った先輩も素敵っ」




異様な空気だった。




「壱逗君、確認だが……

早苗に手を出したら殺すからな。

それと、早苗を泣かせたら

貴様の存在の全てを否定してやる。

あと、早苗の側を離れることが

あるとしたら…分かっているな?」


「は、はい…

ヘンゼルお兄様」


「なんだ、知っていたのか。

早苗は美しいグレーテル役だ。

素晴らしいだろう。

我が校でグレーテルを演じられるのは

早苗だけだからな!」




ハッハッハと高笑い。

ぁあ、こいつ、部長という権力を

フルに乱用して早苗を

グレーテル役にしたんだな…。




分かってはいた。

分かってはいたが…

実際に目視すると改めて頷ける。

やっぱりこいつはシスコンだ。

しかも、重度の。




ご機嫌な立石をその場で見送る。

円香は姿が見えなくなるまで

ハートマークを飛ばしながら

手を振り続けていた。