夏 色 の 風





あぁ、男のくせに。

泣いてしまいそうだ。




「やぁ、君たち何してるんだい?」




再び顔を下げていた俺は、

聞き覚えのある声に顔を上げた。




高い鼻。大きなパッチリ二重。

色白の肌に、ほんのりピンクの頬。

黒髪はきっちりセットされ、

私服はメンズ雑誌の切り抜きみたい。




イケメン風な男。

円香が顔をピンクに染めてモジモジ。




「立石…和馬?」




早苗の腹違いの兄貴で嫌味な男だ。




「壱逗 亮佑君、

もう身体の調子はいいのかい?」


「大分前に、すっかり完治してます。

その節はわざわざお見舞い

ありがとうございました」


「よかったね、良くなって。

あのまま治らないで一生

病床に臥してるのかと思ったのに」


「身体だけは頑丈なんで。

風邪引いたのも久しぶりです」


「あ、そっか。身体だけ、は

頑丈だったね」




お互いニコニコしながら、

トゲのある言葉を投げ合う。


円香は立石をロックオンして、

1㎜も視線を外さずにいる。

ちゃっかり隣に立っているのもさすがだ。




「それより、君たちいつから

付き合ってるんだい?

壱逗 亮佑くんは、早苗から

円香ちゃんに乗り換えたのか?」


名前を覚えてて貰ったのが

よほど嬉しいんだろう。

円香が今にも踊り出しそうだ。




「別に付き合ってませんけど」


「そうですよぉ、先輩!

あたしは先輩一筋ですぅ♪」




嘘をつけ、嘘を!!







心の中だけで突っ込む。

けして外に出してはいけない。