夏 色 の 風





「まぁまぁ。絶対正夢にはならないって。

立石と早苗はそんな関係じゃなかったし」




直之には、早苗の過去について

あまり詳しく話していない。

別に直之を信用してないわけじゃないが

やっぱりプライベートな問題だからな。




直之は口には出さなくても、

大体の事情は掴んでいるようで

俺が詳しく話せないことも理解している。




『ははは…そう願ってろ』


「お前もな」




ニヤニヤしてみる。

多分あっちも電話の向こうで

ニヤニヤしているはずだ。




電話代が怖いので、

『あとは自分で考えろ』

と言われた後電話を切った。




はぁ…頭痛い。




携帯を充電器に差して、

畑仕事をするため庭に出た。




真っ青な空に大きな雲が浮かぶ。




蝉の声は、いつからかあまり

聞こえなくなっていた。

最近は夕方に蜩の声がするくらいだ。




熱中症予防の帽子を被り、

仕事道具を持つ。

今日は草むしりを頑張ろう。




こういうときは、無心に

何かをするのが1番だ。




せっせと草をむしっていると、

視線の端で何かが高速に飛び去った。




ココに来てから5回は見た、

オニヤンマだろうか。

わずかに視線を上げて見ると、

それは可愛らしい赤とんぼだった。




「もう、夏は終わるんだな…」




ぽつりと呟いた言葉が虚しい。




夏を求めて空を見上げる。

吸い込まれそうなくらい澄んだ空。

この空ともお別れが近い。




見慣れた都会の空は、思えば

どこかくすんで見えた。

だから初めてココに来たとき

大きく深呼吸したい気持ちに駆られた。

そのまま空に飛んでいけそうだった。




視線を10cmほどに伸びた草に移し、

また無心に草をむしった。