夏 色 の 風





翌朝も寝坊したふりをして、

早苗が家を出た後で起きた。




ばあちゃんは樽澤さんに乗せられ

スーパーまで買い物に行き、

俺はいつもどおり家事をこなしてから

畑仕事をしようと、準備していた。




――ピリリリリ、ピリリリリ…




固定電話が鳴る。

出ようか迷いつつ、急用だと困るので

一呼吸置いてから出た。




「もしもし」


『もしもし、菜々子です。お母さん?』


「……母さん。俺、亮佑だけど」




電話の主は、俺の母親だった。

息子だと分かると、急に

テンションアップ……。

10cm受話器を耳から離す。




『やーだぁ、亮ちゃん?

元気にしてるの?

ちゃんとご飯は?食べてるの?

ご飯のあとは歯を磨かなきゃダメよ〜?

お腹出して寝てない?

いくら暑くたって、お腹出して寝たら

風邪引いちゃうかもしれないでしょ?

ばあちゃんに迷惑かけてないわよね?

あっ、そうだそうだ!早苗ちゃん、

元気にしてるのかしら?

最近会ってないけど、あの子本当に

可愛くていい子よねぇ〜!!』




長っ。




「うん、みんな元気、順調」


『そぉ〜?

あっ、今空港にいるんだけどね!

明日の朝にはそっち着くと思うの!

だから荷造りしておいてね!』


「えっ…明日?!」


『うん♪』


「急過ぎるだろ!なんでもっと早く

連絡してこないんだよ!」


『だぁって、亮佑でしょ?

国際電話してくるなって言ったの!

だから帰国してすぐに電話したの!』




なんて親だ。

最低だ。タイミングも何もかも

最低過ぎてツッコミが入れられない。




『多分午前中には着くから♪

お母さんいる?』


「樽澤さんとデート中」


『あら〜…じゃあ今夜電話する。

亮佑からも伝えておいてね!

荷造りちゃんとしておいてよ?』




『じゃーねー!』と電話を切った母。

元気有り余り過ぎ…。