夏 色 の 風





奥へ奥へ進む。

きっとここなら、誰にも

見付からないはずだ。




泣こうと思って来たものの、

埃を払って床に座っても

涙は流れなかった。




今まで誰かを本気で好きになったことは

一度もなかった。

中学の時、みんなは"恋"に夢中で

カップルが出来ては別れ、

出来ては別れを繰り返していた。




俺はそれを間近で見ながらも

参加はせずに傍観していた。




高校になっても変わらず、

一生恋なんてしないんじゃないか?

俺って意外と冷たい人間だったりする?

なんて思ったこともあった。




でも、ばあちゃん家に来て

早苗と出会ってすぐ恋をした。

そこからは、長いような短いような

だけど幸せな日々を過ごして。

早苗の過去の秘密も知り、

俺に出来ることは早苗の側に

いることだけだと思った。

側にいたいと思ったんだ。







…と言っても。

本人から拒絶されたんじゃ意味がない。

早苗の側に、隣に立つのは

俺では力が足りないらしい。

そりゃあ、こんな馬鹿より

もっとイケメンで頭のいい奴がいいよな。




あー、泣きたい。

自分のふがいなさに。

涙が出て来ない。

こんなに泣きたいのに。








チリン、と何かが音を立てた。

誰かいるのかと思って振り返ると

ネコが4匹並んでこっちを見ている。




大きなネコは知っている。

確かお隣りさん家のネコだ。

多分、残り3匹は子供だろう。

まだ20cmくらいしかないし、

歩き方がヨタヨタしていて可愛い。




「同情か?」


話し掛けてみるが、親ネコは

俺に向けていた視線を前に戻し

子供の先頭になって去って行った。


「ネコにまで逃げられた…」




あー、なんで涙が出ないんだ。

せめて一滴くらい出てもいいのに。







ばあちゃんが俺らを呼ぶ声がして、

足を拭いてから居間に向かった。