夏 色 の 風





「ナエちゃんは、下の名前で

呼ばれることが大嫌いなの。

あんなに仲良しのマドレーヌ…あ、円香も

下の名前じゃ呼ばないでしょ?

…それを、初めから下の名前で…。

しかもそれにノー、ツッコミって…!

一途さん、どうやったのよぉう」




女子2人は大興奮だ。

顔から湯気が出て来そうな勢いで。




亮佑は記憶を振り返ってみる。

早苗を"早苗"と呼ぶのは、

亮佑、ばあちゃん、立石、直之、

酔っ払った時の樽澤さんだけだ。




直之は、早苗の前では畏怖で

呼び捨てにはしなかった。

樽澤さんは、酔っ払うと時々

早苗を呼び捨てにする程度だ。




まともに呼び捨てにするのは、

やはり亮佑とばあちゃん、

立石くらいだ。




(この話し…今聞けて良かった)


もっと早いタイミングならば、

『友達にも呼び捨てにさせない早苗が

なんで立石からは呼び捨てにされてんだ!

うぉお、マジでどんな関係?!』


と、亮佑は馬鹿な頭を

フル回転させていただろう。




(っていうか、円香って

マドレーヌって呼ばれてたの?!)


実はフランス語がペラペラなのだろうか。




「んじゃ…なんで早苗は

下の名前を嫌ってるんだ?」




肝心なところで、2人は首を振った。

念のため、亮佑は男性陣にも

視線を向けてみたが

やはり首を振られてしまう。




騒ぐだけ騒いでおいて

肝心な部分が抜けているとは。

なんて奴らだ。




(よし、追い出そう)




これ以上滞在されても、

亮佑に非になる部分が多いと思うので

早々に退散してもらおう。














亮佑が立ち上がろうとした、

その時だった。