夏 色 の 風





もし早苗が被害者になれば

確実に彼らが帰ったあとは

イライラ・不機嫌モード全開だろう。

そして亮佑は"玩具"として

ストレス発散の道具にされたに違いない。




そう思うだけで、亮佑の背筋が凍る。

本当に早苗が留守で助かった。




「ねぇ、ねぇねぇねぇ」


ヒロコの元気の良さには負ける。

さっきの昼寝で得た癒しは、

もう使い切ってしまった。


「ナエちゃんのこと、"早苗"って

呼んでるんでしょう?!

どういう経緯でそうなったのよ!

教えてよぉ〜、一途さん!」




顔の前で手を合わせ、ヒロコとアリサは

お願いポーズをしてみせる。




(経緯とか言われてもな…)




最初は確か、"胡瓜泥棒"と呼んでいた。

それが"早苗"となったのは、

晩御飯の時にばあちゃんに

胡瓜泥棒の正体を教えてもらってからだ。

自然の流れで"早苗"と呼んだ。

早苗も亮佑を"亮佑"と呼んだ。

だから気にしたことなんてなかったのに。




「なんで…早苗って呼んじゃダメなの?」




亮佑は思ったことを口にした。

…いや、口にしてしまった。




「ダメなの?…って!!!!

一途さん、それじゃあ出会った時から

ナエちゃんを名前呼びなの?!

ひゃあ〜大スクープだわ〜!!」




ヒロコとアリサが悶絶した。

そういえば空気になりかけていた

嵯峨山と峰岸もひどく驚いている。




亮佑は、言葉の選択を間違えたと

今更後悔した。