もう一度、改まる。




「あの絵見ててさ。俺、分かった。

早苗が何を伝えたかったか」


円香の勘違いのせいで、

馬鹿な脳みそフル回転させて

ようやく分かったこと。


「昨日言ってたことだよな。

"ここに帰ってきたい"って」




早苗は顔を真っ赤にさせて、

少しうろたえた。

図星らしい。




「あの絵見て、懐かしいっていうか…

ホッとするというか。

それで分かったんだ。

早苗はココにいたい、

帰りたいんだなって」


「りょ、亮佑のくせに、

知った風なこと言わないでよ…」




その言葉に、いつもの元気はない。

やっぱり図星らしい。

当たっててよかった。

外れていたバージョンを想像して

身の毛がよだつ。

きっと"かつて亮佑と呼ばれていたモノ"に

なってしまっていたと思う。




「あの作品だろ、早苗が言ってたやつは」


「…そうだけど。悪い?」


頑張って強がってる感じが早苗らしい。


「いいや?悪くないけど?」


真似してみる。




どちらともなく、笑った。




「あらあら、2人とも楽しそうだねぇ。

何かあったのかい?」


丁度お風呂から上がってきた

ばあちゃんが加わる。




昨夜のうちに、早苗は

ばあちゃんにバイトの事を打ち明けた。

やはり知っていたようだったが、

早苗がやりたいのなら続けなさい、と

言ってくれたという。





菜々実叔母さんが言っていた

『不思議な魅力で人を包み込む』とは

まさにこんな感じなんだろう。




3人で縁側に座り、

温かいお茶を飲む。












もう、夏の終わりが近付いている。

俺がこの家にいられるのは、

あとどれくらいか分からないけど。

その日まで。最後の日まで、

今のままずーっとこうしていたい。




温かいお茶にフーフーしながら

そんなことを考えた。