「そして産まれた子供は、
母親…つまり、浮気相手の人と
細々と暮らしていたの。
だけど菜々実さんは耐え切れなくなって
ついに立石さんと離婚した。
その時産まれた子供が、あたしよ。
その後、浮気相手の人は
仕事が成功して海外に行くことになって、
あたしが邪魔になっちゃったのね……
立石さんに預けられた。3歳の時だった。
そこで1年暮らしたわ。
けど、立石さんはシングルファザーだし
仕事で忙しくてあたしの面倒を見る暇は
全くなかった。家政婦を雇うお金もないし、
結局菜々実さんに預けられたの」
一旦話しを辞め、早苗は俺をじっと見た。
その表情はまるで怯えているようだった。
『どうした?』
「…なんでもない」
早苗はすぐに視線を天井に向ける。
「4歳で菜々実さんに預けられて、
初めは家に帰りたくて仕方なかった。
何度も泣き叫んだし、家出もして
菜々実さんにすっっごく迷惑かけて。
次第に打ち解けて、幸せだなぁって
いつの間にか思うようになったの。
本当よ?この人がお母さんならいいのに!
って思ってたもの。
10歳の時、本物の母親が
現れたらしいんだけど…
あたしその場にいなくて。
それ以来現れなかったし、
少し波風は立ったけどすぐ元通り。
で、11歳の冬に…おばさんが
事故で亡くなったの。
生前、菜々実さんは
『私に何かあったら、私の母親を
頼りなさい。あの人は不思議な魅力で
きっとあなたを包むはずよ』って
言ってたから、ばあちゃんの所に来たの。
本当は、実の母親が来てたらしいけど
菜々子さんがシャットアウトしたのよ。
『この子は菜々実の子供です。
帰って下さい。もう二度と現れないで!』
って。それを聞いたのは最近だけど、
あの時聞いたとしても、やっぱり
あたしはばあちゃんとの生活を選んだわ。
だって、自分の都合であたしを預けて
海外にトンズラした女よ?
そんな人と一緒に暮らすなんて
絶対有り得ないわ」

